社長のひとり言2013年
第57回 愛情のある家
実際にある私立小学校で家庭宛てに配られた手紙に書いてあった内容です。
『学校のトイレのフタは自動で開きませんので、自分で開けてから用を足す様に御家庭でお話しておいて下さい』
『算数の計算問題は電卓で解かない様に御家庭で教育しておいて下さい』
『社会の時事問題はiPadやパソコンで調べずに新聞や雑誌などを読んで情報収集する様に指示して下さい』
今や小学校6年生の携帯電話所有率は全国で44.1%、東京都においては57.3%です。読書もタブレットという時代ですからあたりまえなのかもしれませんが、
まさかトイレがウォシュレットやウォームレットだけでなく、フタの自動開閉機能の普及がここまで進んでいるとは、住宅や店舗の設計を仕事としている者としては驚愕の事実でした。
そんなデジタルな時代なので、ちょっと面白い問題を用意しましたので、興味のある方は読み進めてみて下さい。
問1.従来型のトイレで大(いわゆるうんち)をした後に、それを流す為に必要だった水の量は何ℓから何ℓまで削減されたでしょうか?
(答え)約13ℓから今は4ℓ程度
問2.家中全ての白熱灯をLED化した場合、消費電力はどのくらい削減できるでしょうか?
(答え)約86%
問3.自宅でその人生の最後を迎える人は全人口の何%くらいいるでしょうか?
(答え)約12%(つまり約8人に1人)
全て住宅や家に関する身近な問題です。
何問正解できましたか?
「家」が快適でそこに住む人々が肉体的にも精神的にも健康になり、地球にもやさしい「エコ住宅」が普及する事は大切な事であり 、建築に携わる我々は積極的にそれを推進すべき使命があるとは思いますが、「家」の快適の尺度って全て数字で表せるものなのでしょうか?
約8年前に設計をさせて頂いたある御家庭の事を思い出しました。その家には耳の聞えない(厳密には聞きとりにくい)小学生の娘さんが いらっしゃいました。
それはお母様の御子様への愛情を深く感じた物件となりましたので今でもよく覚えています。
そのお母様が私に、「この娘には、自分たち親が死んでも四感(五感ではなく)で生活していける様に
訓練してあげる事が私が今、してあげられる全てなのです…」
と毅然とした態度でお話をしてくれたのが印象に残っています。
具体的にした事は
① | インターホン…あたりまえですが、音の呼び出しでは気付きません。
呼出音と連動してパイロットランプが点灯します。 |
② | 目覚し時計…時計と連動して振動で起こします。 |
③ | アロマオイルを焚いてその匂いを変える事で、夕食や入浴を知らせます。 |
などなど…
本当に四感をフルに使って生活をしていく、ある意味たくましさを感じました。
語弊があるかもしれませんが、
トイレのフタが自動で開く家で生活している者には理解できない、このお母様の『愛情のつまった住宅』はまさに、数字では表せない、そこに住む人だけの快適の尺度がそこにはあると思いました。
設計という仕事は、そこに住む方の幸せの尺度をキチンと理解しなければできないものだというのを痛感した出来事でした。
さて、
この調子で住宅の設備が進化していくと…
そのうち「開けゴマ!」という言葉で玄関の開錠が出来る時代がくるかもしれませんね~(怖)
第56回 始まりなのか、終わりなのか
2020年、東京で再びオリンピックが開催される事が決まりましたね〜。正直7年後…と言われると今ひとつピンと来ないのですが、とにかく同じ日本国民としては嬉しく思います。
何と言ってもオリンピックを生で観戦できる機会はそうそう無いですからね〜。今から楽しみです。
招致が成功してそれが(招致する事だけが)目標だった方はそれで終わりになるのですが、 オリンピックそのものの実行に携わる方々はこれが始まりで、7年間という長い準備期間に入る事になる訳です。
つまりプレゼンテーションをして、それが認められ契約に至る場合、 契約をする事が最終目標の人と、物事を全て終えてクライアントにお渡しする事が 最終目標の人では、同じプロジェクトに携っていてもその達成感を味わう時期や 重みに微妙な温度差があるのは事実だと思います。
そこで以前経験したこんな事を思い出しました。
今はもう付き合いのない不動産業の社長(K氏)と
私(佐藤)で世間話をしている時に…
K氏 | 「いや〜今月土地の契約8件とったよ〜」 |
---|---|
「儲かっちゃってしょうがないから買っちゃったベンツ」 | |
「佐藤先生もどう?ベンツ?営業マン紹介するよ〜」 | |
私(佐藤) | 「いやいや私はご遠慮しますよ〜」 |
「でもすごい勢いですね〜。毎週2件ペースで契約ですよね〜」 | |
K氏 | 「やっぱり俺って営業の才能あるんだな〜」 |
その会社とはもう付き合いがないと言いましたが、正確には付き合えなくなったと言った方が正しいかもしれません。なぜならこの会社、この会話をした2年後に 倒産してしまったからです。
自分のした仕事や行動について「ご褒美」を出す事自体は悪い事ではないと思います。
むしろ仕事に対するモチベーションを上げる為にそうした方が良い場合もあると思います。
ただこの会社のこの社長(K氏)は、お客様やクライアントの「満足を得る」ということが
最終目標ではなかった為に(売る事が最終目標だった)、紹介客やリピーターなどのファンを
増やす事が出来なかった事で、地域に密着した商売が出来なかったのでしょう。
ちょっと想像してみて下さい。
例えば車を購入する事にしたとします。
購入する際には笑顔で誠意ある対応で営業してくれた
営業マンなのに購入したとたん、若しくは車に何かしらの問題があって
相談した際に、冷たい態度をとられたとすれば、もう二度とその店(メーカー)では購入しようとはしないはずです。
逆に購入した後でも相変わらず、笑顔で誠意ある対応をしてもらえたなら
次にまた同じ店(人)(メーカー)で買おうと思うはずですよね〜。
これが「世の常」なのではないでしょうか?
結局、人はもちろん良い物(良い品物)を買い求めますが、できれば良い品を『良い店や良い人』から買いたいと思うはずです。
ではその良い店や良い人というのはどういう事か…
品物(商品)を売った後でも誠心誠意対応してくれる人間力だと思います。 結局人は物とお金ではなくて、人と人とのつながりの中で生きていくものではないでしょうか?
私は住宅や店舗の設計や施工監理を商売としていますが、
常に『契約』が始まりで『お引き渡し』=『満足』がゴールだという戒めの気持ちを忘れずにお客様に接していきたいと思っております。
「お」「も」「て」「な」「し」の気持ちを忘れずに。
いやいや「おもてもうらもない」正直な気持ちでです。ハイ
第55回 priceless
ちょっと固い話になりますが…
今の時代、大抵のものはお金で買う事が出来ます。
しかし、そんな現代でも「時間」と「命」はお金で買う事が出来ません。
それを考えるとお金ってそんなに重要なものでしょうか?
(あるのにこした事はないのはわかります。)
私はお客様と建物の建築請負契約を結ぶと
必ず行う事があります。
それは、神社にお参りに行く事です。
この事は、お客様は勿論、社員も知らないと
思います。
(言った事ないですから)
実は、ハウスメーカーに勤務していた時、直属の部下が工事中、屋根から
落ちて大腿骨骨折の大怪我をした事があり、その瞬間を目の当たりにした
シーンが今でも夢に出てくる事があります。たまたま転落したちょうど下が
土であった為、骨折で済んだのでしょうが、もし大きな石でもあったら
骨折だけでは済まなかったでしょう。
住宅工事に限った事ではなく他の職業でも安全を最優先に考えている
はずです。(そう信じたい)
例え高品質な住宅が出来たとしてもそこで(その現場で)事故が
起こってしまえば、その家のオーナーであるお客様の「満足」というものを
得るのは難しいと思います。
会社を設立してから今日まで現場で事故がないのは
仕事をする上で励みになります。
「困った時の神頼み」ならぬ「困る前の神頼み」です。
お客様から契約を頂くと完成、引渡しまでに工事に携わる職方さんや
周辺住民の方々の安全の為に何が必要かを考えます。
近隣の方々への挨拶は勿論、工事車輌の駐車場の確保や工事材料の
飛散防止用ネットの取付、
転落防止ネットの施工などは必須です。
今回、なぜこれほどまでに「安全」について語っているかと言うと…
先日、夏休み恒例となりました24時間TVで、小学生や中学生くらいの
子供たちが、事故や病気で体の一部に障害が残り、やりたいスポーツも
出来ない不自由な生活をしている様子を見て、親の気持ちもわかるし
子供の気持ちもわかるしで…泣けました。
私たちが携っている建築現場でもし、万が一事故による怪我人が出たとすれば、
怪我をした職人さんは勿論、その家族にもその事によりつらい思いをさせてしまいます。
その様な事がない様に改めて気を引き締めた夏休みとなりました。
priceless(プライスレス)は「お金で買えない…」
という意味の他に
「かけがえのない物(人)」という意味があるのを知ってますか?
「かけがえのない物(人)」の為に今日も頑張ります。
第54回 『小数点な男』
世の中には小数点が溢れている。
PM2.5 ,円周率3.1415…,今日給油したガソリンの量 20.83ℓ…etc。
先日、長女の中間テストが帰ってきてその問題の解答が『2.5人』というものがあって驚嘆しました。
『2.5人』っていったい…何?0.5人というのはどういう事なのでしょうか?
問題をよく見るとなるほど、答えは2.5人になるのだけれど、世の中に0.5人というものが存在するのか
答えそのものより問題のあり方に疑問の念を抱いてしまう。
今回、なぜこれほどまでに小数点にこだわっているのか?…それは。
私は小数点が大嫌いだからです。特に0.5が!
中学生の時、小数点の計算が苦手だったから? No
円周率が覚えられなくておそくまで学校に残されたから? No
図面を作成する際、毎日、小数点を見ているから? No
それは私がハウスメーカーに就職して3年目の頃に起った事件が原因です。
私は就職して2年目に2級建築士の資格を取得しました。
恐らく2級建築士をとる年齢としてはかなり早い方だと思います。
そしてその頃、私は設計と工事監理の両方の仕事を任せられており、
年間約60棟くらいの住宅の設計と監理をしていました。
とある現場での出来事。
完成した物件の玄関の扉を90°以上開けると
玄関の庇を支えている柱をギリギリかすめて
開くという状況でした。
(勿論、柱に扉はぶつかりません)
その施主(確かY氏)が、そのすき間に指を挟む…というクレーム(?)を
つけてきたのです。
住宅メーカーの建物は柱の位置などは全てプランニングルールという
規定で決められており柱の位置などはそう簡単に変えられません(当時)
その施主(Y氏)のもとには担当営業マンと何度も説明に伺いましたが、
納得いかない様子で、その際(Y氏が)私に言い放った言葉がこれです。
Y氏 | 『2級建築士の半人前じゃ話しにならん』 |
Y氏 | 『上司の1級建築士を呼んで来い!』 |
もう20年以上前の事ですが、鮮明に覚えてます。
『そーか。2級建築士は半人前(0.5人)なんだ』(Y氏の一方的な考え)
『1級建築士でないと一人前じゃないんだぁ』(Y氏の一方的な考え)
世の中に出てさほど大きなクレームも経験せずに順調に業務を
こなして来たので、余計ダメージが大きかった気がします。
その後、直属の上司がそのY氏のところへ行き100%正解な大人な対応をしていました。
上司 | 『御契約頂く前に同じタイプの建物をご覧になっていらっしゃるわけで、 その際に柱位置なども御確認されていると思いますが…。もし 御子様が指を挟んでケガをされてもよくありませんので、柱にスポンジの様な やわらかいカバーをお付けする事で御納得いただけませんでしょうか?』 |
流石!一人前の1級建築士~
翌年、晴れて私も1級建築士を取得しました。
ある意味ハングリー精神で…Y氏のお陰かも。
これで私も一人前ですね Yさん!
最近、お客様(U様)からこんな言葉を頂きました。
U様 | 『佐藤さん仕事しすぎなんじゃないの~』 |
U様 | 『人の1.5倍仕事してると体壊しちゃうよ~』 |
今度は1.5人前か。
私はやはり小数点な男の様です。
目指せ男前。
第53回 『満足の本質とは』
先日、お引き渡しをしたお施主様から
こんな言葉を頂きました。
『この家の外観ってやっぱり佐藤さんが設計した家っぽいよね~』
その時は、何気ない会話でしたが、今になってよく考えてみると
それは、最高の褒め言葉だった気がします。
私の設計した建物を雑誌やHPで見て、何かしらそのデザインや機能性に
共感してお問い合せを頂く訳ですから、完成した家が私の設計のテイストが
出ている…という意味合いの言葉を頂けるのは幸せな事だなぁと思います。
実は、自分の設計事務所を持ち5年程たった頃、某TV局に私の設計した住宅を
紹介して頂く機会がありました。
純粋にとてもうれしかったのを今も覚えています。
その住宅のオーナー様にも気持ちよく協力して頂き、撮影も無事終わり大々的に
TV放送もされました。
しかし、今、振り返ってみればTV放送されたという事自体は実はお客様には
関係がなく、ただの自己満足だったのではないか…と思うことも多くなりました。雑誌やTVで紹介されたり賞をもらう為に仕事をしていた時期もあったかもしれません。(それは紛れもなく会社の宣伝になるからです…)
今回、お施主様から頂いた『佐藤さんっぽいよね~』は、私のワークスタイルを
ちょっとだけ認めてもらった気がして、今となってはその当時TV放送された時
以上にうれしく思います。(まるくなったんでしょうかね~)
そこで満足(satisfaction)と言えば…
私が独立して開業する前にお世話になった不動産業の社長が、その当時、
笑い話として私にしてくれたこんな話があります。
その社長は不動産事業を成功させ、何億円という資産を築き、それこそ何でも手に入る方でした。
ある記念日に奥様に腕時計をプレゼントされたそうです。
確か数百万円の代物(しろもの)と言っておりました。
そんな社長にも駆け出しの頃があり、結婚当時はまだお金がなく、奥様に安物の腕時計しか買ってあげられなかった事が
ずっと気になっていたとか…
その社長が、奥様に『新婚当時に買った時計と今の時計とどっちがもらってうれしいか…?』と聞いたそうです。
すると『どちらも同じくらいうれしい…』と返事が返ってきたそうです。
その社長は私に『結局、物の価値って高額なものとか希少価値のあるものとか
ではなくて、その物に対する気持ち次第なんだよな~』
『高価なものを買えば満足するってもんじゃないんだよ』
と言っていたのを思い出しました。
そうは言っても、その後、その社長は奥様に高級外車と別荘をプレゼントして
いましたけど…(笑)
『どちらも同じくらいうれしい…』といわれれば、また何かしてあげたいという気持ちに
なりますよね~。
私が今、取り組んでいるプロジェクトでも
お客様に満足して頂きその幸せのおこぼれを
私も頂き、お互Win-Winの関係が築けたら
最高ですね。
お客様の満足の為これからも頑張ります!
第52回 『覚えていてくれたんだ』
25才で一級建築士の資格を取得し、今年で20年が経とうとしています。
社会に出て、最初の7年間はハウスメーカー勤務でしたので、実際に自分で
自由に設計をして施工監理をした最初の物件は13年前のもの…という事になります。
先日、その記念すべき(?)1棟目の物件(K様邸)が新しく道路が造られる為、
立ち退きで解体を余儀なくされる事になりました。その土地はもともと
計画道路区域でしたので、いずれこの時が来る事はわかっていました。
(都市計画法 第53条)
その当時に土地の仲介をしていた不動産業者が気を利かせて、解体の事と、
解体着工日を事前に教えてくれていました。
解体当日に現場に行ってみると、御主人様と
奥様と、当時小学校低学年だった(?)長男君が
たまたま解体の様子を見学していたので
声を掛けてみました。(覚えていてくれるだろうか?)
するとK様は、つい先日も会ったかの様なフレンドリーな対応でにこやかに私に接して下さいました。
(K様) | 不動産業者のYさんが、佐藤さんに今日の解体の事、話しといたから ひょっとすると佐藤さん来るかもしれないよ~と言ってたよ。 本当に来たね~(笑) 佐藤さん、10年以上たつけど変わってないね~ 俺なんか頭がさびしいもんだよ(笑) | |
私(佐藤) | K様も当時と変わらずダンディですヨ~ | |
と、お互いお世辞合戦。 | ||
私 | 今までは建築(建てる)事はあっても自分で携った家が、 解体されてしまう事はなかったので、少し寂しい気持ちになっちゃいますね~ まだ13年ですものね~ |
|
(K様) | ほんと、13年なんてあっという間。 そうそう、うちの長男、今大学で建築の勉強しているんだよ。 佐藤さんの後輩。N大。 | |
私 | えー。本当?(あんなに小ちゃかったのに…当たり前か) 僕の事、覚えてる? | |
(長男君) | はい… | |
(K様) | 佐藤さんのHPやら「ひとり言」はいつもこいつ見てチェックしてるよ。 少なからず、こいつが大学の建築に行ったのは、佐藤さんの影響 あるんじゃないかな~。なぁ。 |
|
(長男君) | それもあるかな~ なんて… | |
私 | じゃぁ、今度建てる家は長男君に 設計してもらえて幸せですね~。 楽しみだな~。どんな家を設計するのか…。 がんばってねー。 |
こんなたわいもない会話の中に私はK様に大きなパワーをもらいました。
小さな小学生だった子供が私の事をちゃんと覚えていてくれて、
お世辞かもしれませんが、私の影響で同じ大学の同じ学部で学んでいる
という事実。
そして駆け出しの頃の私の拙い設計を支持して頂き施工させてもらって
さらにその建物の最後を看取る場を作って頂いた事に感謝です。
なんと言っても『覚えていてくれた事』に感謝。
建築士の仕事は、建物が完成したら終わりではなく、
その建物が存在する間は常に携っていられる事が本当の
建築士の使命ではないでしょうか?
今度は、今まで建てた家のオーナー様から『覚えていてくれたんだ~』と
言われる様な仕事をして行きたいと思いました。
あっそうそう、契約に至らなかった物件もよ~く覚えていますヨ
(いやらしい話ですが…)(笑)